入社して1か月。もう辞めたい。でも、辞められるのか、辞めたらどうなるのか、履歴書に書くのか。この3つが別々の記事にしか書いていなくて、読み比べているうちに夜になっていませんか?
「1か月なら履歴書に書かなくてもバレない」と書く記事があります。「試用期間中なら14日以内は自由に辞められる」と書く記事もある。どちらを信じればいいのでしょうか。どちらも、条文と採る側の手続きに照らすと成り立ちません。
僕はいまも人を採る側にいます。経営者として8年、採用の最終決裁をしてきました。その前に事業会社で採用担当を2年。短期離職の書類を落とす判断も、通す判断もする側です。面接した人数は、覚えていないけれど500人くらい。
辞められるか(条文)、辞めたらどうなるか(雇用保険と源泉徴収票)、履歴書に書くか。順に書きます。辞めるかどうかは、最後に決めてください。
※ 統計は厚生労働省の公表資料、法令は e-Gov 法令検索の原文を2026年9月12日に確認しました。実務の記述は僕が関わってきた採用のものです。
1か月で辞めたい人は、珍しくない
まず数字から。国が毎年出しているものです。
3人に1人。この数字は【26卒・入社半年】もう辞めたいときに見る順番にも書きました。1か月の人に関係があるのは、その先です。
厚生労働省の若年者雇用実態調査(令和5年)は、初めて勤務した会社をやめた理由を勤続期間で分けています。1年未満で辞めた人は「人間関係がよくなかった」が最も多い。1年〜10年未満になると、最多は「労働時間・休日・休暇の条件がよくなかった」に入れ替わります。
全体の上位4つはこうでした(3つまでの複数回答)。あなたの理由は、どれに近いでしょうか。
1か月で見えているものは何でしょうか。職場の人と、聞いていた条件との差。この2つです。仕事の中身は、まだ見えていない。1か月で辞めたい理由は、人か条件のどちらかに寄ります。3か月や半年の人と、ここが違います。
会社の規模でも開きがあります。事業所規模5人未満の3年以内離職率は57.5%、1,000人以上は27.0%。小さい会社にいて辞めたいなら、統計の上でも珍しい話ではない。
確かめる順番は4つ。2つめが1か月に固有
相談を受けたとき、僕はこの順で聞きます。半年の人に聞く順番と、2つめだけ違います。
眠れているか、食べられているか。崩れているなら、下の3つは飛ばしていい。辞める判断を急いでください
給与、勤務地、労働時間、業務内容。手元の書面と、いまの実態を横に並べる。違えば、次の章の条文が使えます
人か、時間か、給与か、仕事か。1か月だと仕事の中身はまだ判断できないことが多い。人か条件かで絞る
異動願いも改善提案も要りません。1回話す。この1回が、次の会社の書類に書けます
2つめが1か月に固有です。半年たてば、条件の食い違いはとっくに分かっています。1か月だと「こんなはずでは」の正体が、条件の違いなのか、慣れていないだけなのかが混ざっている。書面と並べると、分かれます。
手元に、労働条件を明示した書面はありますか? 労働基準法15条1項で、会社は労働契約を結ぶときに賃金・労働時間その他の労働条件を明示しなければなりません。見当たらなければ、求人票と内定通知を並べてください。
4つめは、採る側の都合です。上長に、1回でも話しましたか? あとの章で書きますが、1か月なら「上長に1回相談した」で足ります。それ以上を求めていません。
求人票と条件が違うなら、即時に辞められる
2つめで「違う」と分かった人へ。ここは条文がはっきりしています。
「即時に」です。2週間待つ必要も、試用期間が明けるのを待つ必要もない。明示された条件と事実が違えば、その日に労働契約を解除できます。
求人票の段階にも義務があります。職業安定法5条の3第1項で、労働者の募集を行う者は、募集に応じて労働者になろうとする者に対し、業務の内容・賃金・労働時間その他の労働条件を明示しなければなりません。同条3項では、求人者が明示した条件を変えるときは、変更する内容を明示しなければならない。
「求人票は目安だから」と言われたことはありませんか? 条文の上では、目安では済みません。変えるなら、変えたと示す義務が求人側にあります。
使い方は単純です。求人票、内定通知、労働条件を明示した書面の3つを並べ、違う項目に印をつける。何がどう違うかを1つ言えれば、15条2項で解除を伝えられます。
引っ越して入社した人は、もう1つ。15条3項で、契約解除の日から14日以内に帰郷する場合の旅費は会社負担です。
対象に入らないものも書いておきます。「思っていた雰囲気と違う」「先輩が冷たい」は、明示された労働条件の相違に当たりません。給与、労働時間、勤務地、業務内容。書面で示されたものと事実の差で判断してください。
条件は同じ。それでも辞めるなら、申入れから2週間
条件は違わない。でも辞めたい。こちらは民法です。
正社員は、多くの場合「期間の定めのない雇用」です。条文にあるのは「いつでも申入れができる」と「申入れの日から2週間で終了する」の2つ。会社の承諾という言葉は、出てきません。
起点は申入れの日です。いつ申し入れたか、あとから示せますか? 口頭で伝えたあと、日付の入ったメールを1通。それで足ります。
切り出せないから辞められない、という人も多い。言い方は新卒の退職が言いづらいときの切り出し方に分けて書いています。
期間の定めがある契約(契約社員など)は、627条1項の対象になりません。民法628条で、やむを得ない事由があれば直ちに解除できますが、その事由が自分の過失で生じたなら損害賠償の責任を負います。契約書に期間が書いてあるなら、先にそこを確かめてください。
「試用期間だから14日以内なら自由に辞められる」は誤解
この話、見たことがあると思います。根拠として挙がるのが労働基準法21条。条文を読むと、向きが逆です。
20条は「会社が解雇するときは30日前に予告しなさい」。21条は、その予告の義務を「試の使用期間中の者」には課さない、14日を超えて引き続き使われた人には課す、という条文です。
主語は使用者です。14日は、会社が予告なしに解雇できる期間を指しています。労働者が辞める側の話は、21条のどこにも出てきません。
では、辞める側の根拠はどこにあるのでしょうか。前の2つの章です。条件が違えば15条2項で即時、違わなければ627条1項で2週間。14日という数字は、あなたの退職とは無関係です。
見方を変えると、入社して14日以内は、会社側が予告なしに解雇できる期間でもあります。1か月たったあなたは、その期間をもう過ぎている。
1か月の職歴は、次の会社の手続きでどう見えるか
「1か月なら履歴書に書かなくてもバレない」。成り立つかどうかを、採る側の入社手続きで確かめます。
次の会社に入るとき、あなたは何を出すことになるでしょうか。新しい会社が本人から受け取るものが2つあります。雇用保険の被保険者番号と、その年の源泉徴収票。どちらも、法令で決まっている手続きです。
| 手続き | 根拠 | 1か月の職歴がどう出るか |
|---|---|---|
| 雇用保険の資格取得届 | 雇用保険法施行規則6条1項 | 過去に被保険者だった人は、直近の被保険者証の番号を記載する欄がある。前の会社で加入していれば、番号が存在する |
| 年末調整 | 所得税法190条 | 同じ年に他の会社を通じて扶養控除等申告書を出していれば、その会社の給与を含めて計算する。前の会社の源泉徴収票が要る |
| 源泉徴収票の交付 | 所得税法226条1項 | 年の途中で退職した人には、退職の日以後1か月以内に前の会社が交付する。手元に届く |
施行規則6条1項の原文は、資格取得届に「被保険者番号(直近に交付された雇用保険被保険者証に記載されている被保険者番号)(過去に被保険者となつたことがある者に限る)」を記載する、です。過去に被保険者だった人だけが埋める欄。前の会社で雇用保険に入っていれば、あなたはそこに番号を書くことになります。
源泉徴収票も同じです。4月に入社して5月に辞め、同じ年のうちに次の会社に入ったとします。年末調整は190条で、前の会社が払った給与を含めて計算する。前の会社の源泉徴収票を出さなければ、計算が合いません。
だから「バレない」は、手続きの上で成り立ちません。職歴の有無は、履歴書より先に、雇用保険と年末調整の書類で分かります。
隠すつもりが無くても、番号と源泉徴収票の話は出ます。書いていなかった職歴がそこで出てきたら、採る側は「なぜ書かなかったのか」を考えます。1か月の職歴そのものより、書かなかったことのほうが重い。書かなかった場合に起きることは短期離職を履歴書に書かないとどうなるかに分けています。
履歴書には書く。1か月でも
前の章から続きます。手続きで分かるものを、履歴書から消す意味がない。書きます。
書くと決めたら、次は書き方です。年月と会社名と「一身上の都合により退職」だけで終わらせない。1行足す。その1行、いま書けますか?
職務経歴書の職務内容も、1か月だと「研修中に退職」で終わりがちです。研修で受けた内容と、配属後に触ったものを1つ。電話応対の研修を受けた、先輩の同行で訪問先の議事録を残した。それだけで、役職名だけの書類とは読まれ方が変わります。
在籍を証明する必要が出たら、労働基準法22条1項で退職証明書を会社に請求できます。使用期間、業務の種類、地位、賃金、退職の事由について、会社は遅滞なく交付しなければならない。同条3項で、あなたが請求していない事項は記入できません。
採る側が、1か月の書類で見ていた3つ
在籍1か月と書いてあれば、目には入ります。そこで手が止まるかというと、止まりません。見るところは、3か月でも3年でも同じ3つでした。
- 辞めた理由が書いていない — 触れずに飛ばしている。想像で埋めることになり、想像は悪いほうに寄る
- 辞める前に動いた形跡がない — 相談も希望も出さずに辞めたように読める
- 職務内容が役職名だけ — 会社名と部署名で終わっている
1か月の書類に当てはめると、2つめで止まる人が多い。1か月で何を動かせたというのか、と思いますよね? 採る側から言うと、上長に1回相談した、で足ります。異動願いも、改善提案も要りません。
「配属先の条件が求人票と違ったので、上長に確認した」。この1行があるかないかで、次も同じ理由で辞める人に読まれるかどうかが決まります。1回で足りる理由は単純で、1か月の人にそれ以上できることが無いのを、採る側も知っているからです。
3つめは、前の章で書いた「研修で触ったもの1つ」で埋まります。1つめの理由は、条件の食い違いならそのまま書ける。人間関係なら「上司と合わなかった」で終わらせず、相談した相手と結果を足してください。
落ちるのは短さより、この3つのどれかが空いているときでした。3つの直し方は【落としていた3つ】第二新卒の書類が通らない理由 | 短期離職の書き方もに全部書いています。
新卒枠に戻れるか。第二新卒枠とどちらで動くか
戻れる位置にいます。根拠は厚生労働省の指針です。
「努めること」なので、努力義務です。受け付ける会社と受け付けない会社に分かれる。確かめ方は新卒採用ページの応募資格欄で、【3か月で辞めた人の行き先】新卒の早期離職に書きました。
1か月の人は、この3年のいちばん手前にいます。卒業した年の3月から数えて3年。時間はあります。
もう1つの枠が第二新卒です。法律に定義は無く、線を引くのは各社の応募資格欄。実務では社会人経験3年が境目で、そこを超えると要件がポテンシャルから実績に変わります。
| 枠 | 線 | 1か月の人はどうか |
|---|---|---|
| 新卒枠(既卒) | 卒業後3年(指針。努力義務) | 受け付ける会社なら応募できる。応募資格欄で確かめる |
| 第二新卒枠 | 社会人経験3年まで(実務の境目) | 使える。未経験可の求人が多い |
| 経験者枠 | 実績を求められる | 実績が要るので、いまは向かない |
どちらの枠で動けるか、いま言えますか? 求人票を1枚ずつ読めば分かります。まとめて聞く方法もある。転職エージェント、または就活エージェントに1社登録して、「新卒枠と第二新卒枠のどちらで動けますか」と聞く。
無料で使えます。職業安定法32条の3で、有料職業紹介の手数料は原則として求人者(企業)から受けると決まっているからです。払っているのは採る側。僕も1人採るたびに払ってきました。
転職が決まって初めて報酬が出る構造なので、急かされることがあります。「辞めるか決めていない。枠を知りたいだけ」と最初に言ってください。それで話を聞いてくれるところと、急かすところに分かれる。急かされたら断って構いません。
辞める前に聞く。これが順番です。上長に1回相談して、枠を聞いて、それから決める。
よくある質問
- 新卒で入社1か月で辞めるのは早すぎますか
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大学卒の3年以内離職率は33.8%で、1年未満で辞めた人の理由は人間関係が最も多い。珍しい話ではありません。求人票と条件が違うなら労働基準法15条2項で即時に解除できます。体調が崩れているなら、早い遅いの話より先に辞めてください。
- 試用期間中なら14日以内は自由に辞められますか
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労働基準法21条の14日は、会社が予告なしに解雇できる期間です。辞める側の根拠は民法627条1項(申入れから2週間)か、条件が違う場合の労働基準法15条2項(即時)になります。
- 1か月の職歴は履歴書に書かなくてもバレませんか
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前の会社で雇用保険に入っていれば、次の会社の資格取得届に被保険者番号を書く欄があります(雇用保険法施行規則6条1項)。同じ年内なら年末調整で前の会社の源泉徴収票も要ります(所得税法190条)。手続きで分かるので、書いてください。
- 1か月で辞めたら失業手当はもらえますか
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雇用保険法13条1項で、基本手当は離職の日以前2年間に被保険者期間が通算して12か月以上あることが条件です。1か月では足りません。過去に加入歴があるなら、ハローワークで通算を確かめてください。
